目次

審判手続

 特許出願のクレームが2度以上拒絶された場合、出願人は、特許公判審判部(PTAB : Patent Trial and Appeal Board)に審判請求(appeal)をすることができます(35 U.S.C. 134(a), 37 CFR 41.31(a)(1))。但し、審判では自由に補正することはできません(37 CFR 41.33)。従って、補正を行う余地がある場合には、闇雲に審判請求をするのではなく、RCEや継続出願によって審査官に補正案を検討させる方策を採るべきです。なお、審判請求後であってもRCEを行うことができ、その場合には審判は取り下げられたものとされ、審査が再開(reopen)されます(MPEP §1214.07, 1215.01)。



審判請求書(notice of appeal)

 審判請求をするためには、最終拒絶通知に対する応答期間内(37 CFR 1.134)に審判請求書(notice of appeal)を提出するとともに、審判請求料(37 CFR 41.20(b)(1))を納付しなければなりません(37 CFR 41.31(a)(1), MPEP §1204)。なお、審判請求後に審査が再開され、再び審判請求する際にも、新たに審判請求書を提出しなければなりません。但し、その際には、既に納付していた審判請求料が充当されます(MPEP §1204.01)。

審判理由補充書(appeal brief)

 審判請求人は、審判請求から2ヶ月以内に審判理由補充書(appeal brief)を提出しなければなりません(37 CFR 41.37(a), MPEP §1205)。この期間は最大5ヶ月(通算7ヶ月まで)延長できます(MPEP §1205.01, 37 CFR 1.136(a))。期間内に審判理由補充書を提出しなかった場合には、審判請求は棄却されます(37 CFR 41.37(b))。なお、審判理由補充書提出時に必要とされていた提出料は2013年3月19日の規則改正により廃止され、審理移行時まで先延ばしされました(37 CFR 41.37(a))。

 審判理由補充書には、(1)実際の利害関係人、(2)関連する審判、インターフェアレンスおよび公判、(3)クレーム発明の概要、(4)主張(argument)を記載し、添付資料としてクレームの写しを添付します(37 CFR 41.37(c)(1), MPEP §1205.02)。

 審判請求後であっても審判理由補充書が提出されるまでは、補正の制限は最終拒絶通知の後と同様であり、限定された範囲内で補正が認められる場合があります(37 CFR 41.33(a), MPEP §1206)。審判理由補充書は新たな(または許可されなかった)補正や証拠などを含むことはできません(37 CFR 41.37(c)(2))。また、審判理由補充書の提出後には、クレームの削除、または、独立形式への書換えを除いて、基本的には補正は認められません(37 CFR 41.33(b))。

審理前手続

審査官の答弁

 審判理由補充書が提出されると、審査官は審判に係る案件を検討し、(A)新たな拒絶をするために審査手続を再開(reopen)する、(B)特許を許可する、(c)審判を維持する、の何れかを行うことを選択します(MPEP §1207)。審判を維持する場合には、審判協議(appeal conference)が開かれます(MPEP §1207.01)。この審判協議には、担当審査官とその上司、および、十分な経験を有する他の審査官が参加します。この審判協議の結果、拒絶を維持すべきとの結論に達した場合には、拒絶の正当性を主張する審査官の答弁(examiner's answer)が作成されます(37 CFR 41.39, MPEP §1207.02)。この審査官の答弁は、新たな拒絶を含むことが可能です(37 CFR 41.39(a)(2), MPEP §1207.03)。

弁駁書

 審査官の答弁が新たな拒絶を含む場合には、審判請求人は審査官の答弁から2か月以内に以下の2つの選択肢の何れかを選択しなければなりません(37 CFR 41.39(b), MPEP §1207.03(c))。すなわち、(1)意見書(37 CFR 1.111)を提出して審査手続の再開を要求するか、(2)弁駁書(reply brief : 37 CFR 41.41)を提出して審判の維持を要求しなければなりません。何れの対応もしない場合には、新たな拒絶に係るクレームについて審判が棄却されたものとなります(37 CFR 41.39(b))。

 審査官の答弁が新たな拒絶を含まない場合であっても、審判請求人は、審査官の答弁から2ヶ月以内に、弁駁書を提出して審査官の主張に反論することができます(37 CFR 41.41 MPEP §1208)。

 弁駁書は新たな(または許可されなかった)補正や証拠などを含むことはできません(37 CFR 41.39(b)(2), 41.41(b)(1))。弁駁書における主張が審判理由補充書に挙げられていなかった事項であり、または、審査官の答弁に挙げられていなかった事項である場合には、その事項については審理において考慮されません(37 CFR 41.41(b)(2))。

 なお、規則改正により、2012年1月23日以降に請求された審判については、弁駁書に対する審査官の応答(examiner's response)は廃止されました。

審理移行費

 審判請求人は審査官の答弁から2か月以内に審理移行費(appeal forwarding fee: 37 CFR 41.20(b)(4))を納付しなければなりません(37 CFR 41.45(a) MPEP §1208.01)。期間内に審理移行費を納付しなかった場合には、審判は棄却されます(37 CFR 41.45(b))。

審理手続

 審理移行費が納付されると、審判官合議体による審理手続が開始します。審判請求人は、審査官の答弁から2ヶ月以内に口頭審理を要求することができます(37 CFR 41.47, MPEP §1209)。口頭審理を要求するためには所定の料金(37 CFR 41.20(b)(3))を納付しなければなりません(37 CFR 41.47(b))。陳述できる時間は通常、審判請求人20分間、審査官15分間に制限されています(37 CFR 41.47(d))。期間内に口頭審理が要求されなかった場合には、口頭審理を経ることなく手続が進められます(37 CFR 41.47(c))。

 審判官合議体は、審査への差戻し(remanded)をすることができます(37 CFR 41.50(c), MPEP §1211.01)。審査への差戻しに対して、審査官は代替答弁(substitute examiner's answer)を提出することができます(MPEP §1207.05)。その場合、審判請求人は審査官の代替答弁から2か月以内に以下の2つの選択肢の何れかを選択しなければなりません(37 CFR 41.50(a)(2))。すなわち、(i)意見書(37 CFR 1.111)を提出して審査手続の再開を要求するか、(ii)弁駁書(37 CFR 41.41)を提出して審判の維持を要求しなければなりません。何れの対応もしない場合には、新たな拒絶に係るクレームについて審判が棄却されたものとなります(37 CFR 41.50(a)(2))。

審決(decision on appeal)

 審判官合議体は、審決として、審査官の判断を支持(affirm)もしくは破棄(reverse)します(37 CFR 41.50(a))。差し戻しを含む審決も可能ですが、その場合には最終的な審決にはなりません(37 CFR 41.50(e))。

 一部支持、一部破棄の審決をすることもできます。この場合、拒絶クレームが存在していても、許可クレームのみで特許が発行されます(MPEP §1214.06 II.)。例えば、クレーム1の拒絶が支持され、クレーム2はクレーム1に従属するという理由で審査段階においてオブジェクションとなっており(クレーム2は審判対象ではない)、独立クレーム3は許可された場合、クレーム1および2は職権によりキャンセルされ、クレーム3のみで特許が発行されます。なお、この例において、クレーム2が審査段階で拒絶されていて審判の対象となっている場合、クレーム2は独立形式に職権訂正されるか、または、クレーム2を独立形式に補正するよう補正指令がされます。

 新たな拒絶を含む審決も可能ですが、その場合には最終的な審決にはなりません(37 CFR 41.50(b), MPEP §1213.02)。この新たな拒絶に対して、審判請求人は審決から2か月以内に以下の2つの選択肢の何れかを選択しなければなりません(37 CFR 41.50(b), MPEP §1214.01)。すなわち、(1)補正または新たな証拠を提出して審査官に再考(reconsider)させるか、(2)審判官合議体に再審理(rehearing : 37 CFR 41.52)を要求しなければなりません。何れの対応もしない場合には、新たな拒絶に係るクレームに関する手続は終了します(37 CFR 41.50(b))。

不服申立て(judicial review)

 最終的な審決に不服のある審判請求人は、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)またはヴァージニア州東部連邦地方裁判所に訴訟を提起することができます(35 U.S.C. 141, 145, MPEP §1216)。