米国に特許出願をするためには、直接USPTOに特許出願を行う以外に、PCT制度を利用することができます。PCT出願(国際出願)をした後に米国に特許出願を行う際には、国内移行手続をするか、または、バイパス継続出願をするかの2つの方策があります。
PCT(特許協力条約: Patent Cooperation Treaty)は、複数の国において発明の保護を受ける際に必要な手続を統一するために締結された国際条約です。このPCTを利用して行われる特許出願は、PCT出願または国際出願などとよばれます。PCTでは、受理官庁に対して一つの出願をするだけで出願人の希望する複数の国について国内出願をしたのと同様の効果を生じさせます。国際出願が受理された日は、受理官庁によって国際出願日として認定され、各指定国における実際の出願日とみなされます(PCT A11(3))。
PCTでは、国際出願日の認定された全ての国際出願は国際調査の対象となり、その発明に関連のある先行技術が「国際調査報告」に列記されます(PCT A15, A18)。また、2004年1月1日以降の出願についてはさらにその発明の新規性、進歩性、産業上の利用可能性に関する審査官の見解が「国際調査見解書」に示されます(PCT R43bis)。国際調査報告を受け取った出願人は、請求の範囲を補正することができます(「19条補正」;PCT A19(1))。
国際出願日が認定された全ての国際出願は、原則として優先日から18ヶ月経過後に「国際公開」されます(PCT A21)。この国際公開は、国際事務局が国際出願の出願書類および国際調査報告を印刷刊行するものであり、国際出願が英語や日本語等の所定の言語によりされた場合にはそのままの言語で国際公開されます。
出願人が希望する場合には原則として優先日から22ヶ月までに国際予備審査を請求することができます(PCT A31)。この国際予備審査では、国際出願の請求の範囲に記載された発明の新規性、進歩性及び産業上利用可能性の有無に関する審査が行われ、その結果として「国際予備審査報告」が作成されます(PCT A35)。「国際予備審査報告」の作成に先立って所定の場合に「見解書」が出願人に示されて「抗弁書」の提出機会が与えられることになっていますが、2004年1月1日以降の出願については「国際調査見解書」がその「見解書」とみなされ(PCT R66.1bis)、「国際予備審査報告」は「特許性に関する国際予備報告(第Ⅱ章)」と改称されました。また、この国際予備審査において、出願人は請求の範囲や明細書等を補正することができます(「34条補正」;PCT A34(2)(b))。なお、2004年1月1日以降の出願について、国際予備審査が請求されない場合には、「国際調査見解書」は「特許性に関する国際予備報告(第Ⅰ章)」として指定国に送付されます。
各国において権利を取得するためには、上述のような国際段階から各国の国内段階に移行させる手続を行う必要があります(PCT A22(1), A39(1)(a))。この国内段階移行手続は、原則として優先日から30ヶ月以内にしなければなりません。国内段階移行後は、当該国における手続により特許付与の可否が決定されます。
日本国民又は日本国内に住所等を有する外国人は、日本特許庁を受理官庁として日本語または英語による国際出願をすることができます(国願法2条)。出願書類としては、PCTにより定められた様式により、願書、明細書、請求の範囲、必要な図面および要約を提出しなければなりません(PCT A3(2), 国願法3条)。
PCT経由でされた出願を米国の国内段階に移行させるためには、特許商標庁に以下の書類を提出する必要があります(35 U.S.C. 371(c), 37 CFR 1.495(b))。
これらの手続が優先日から30ヶ月以内に行われなかった場合には、国際出願は放棄されたものとなります(37 CFR 1.495(h))。但し、国際出願の英訳または「宣誓書または宣言書」が優先日から30ヶ月以内に提出されなかった場合には、出願人にその旨が通知され、提出の機会が与えられます(37 CFR 1.495(c))。その場合の提出には、国際出願の英訳については手数料(37 CFR 1.492(i))、宣誓書または宣言書については追加料金(37 CFR 1.492 (h))がそれぞれ必要になります。この通知に指定された期間内に提出されなかった場合には、国際出願は放棄されたものとなります(37 CFR 1.495(h))。
また、19条補正の写しおよびその英訳が優先日から30ヶ月以内に提出されなかった場合には、この補正は取り消されたものとして扱われます(37 CFR 1.495(d))。国際予備審査報告の附属書類(34条補正等)の英訳が上述の国際出願の英訳の提出に認められた期間(37 CFR 1.495(c))内に提出されなかった場合には、この書類は取り消されたものとして扱われます(37 CFR 1.495(e))。
上述のような国内段階移行手続(35 U.S.C. 371(c))を経ることなく、継続出願またはCIP出願を行うこと(“bypass”application: バイパス継続出願)も可能です(35 U.S.C. 363, MPEP §1895)。このバイパス継続出願を行う場合も、優先日から30ヶ月以内に出願する必要があります。
正規の国内移行手続では明細書等を訂正するためには、別途補正書が必要ですが(MPEP 1893.01(d))、このバイパス継続出願の際には、訂正内容を反映した状態で出願を行うことが可能です。また、バイパス継続出願の場合には通常の出願と同様に優先権証明書を提出する必要がありましたが、2007年規則改正によりその提出は不要になりました(37 CFR 1.55(h))。