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限定要求と選択要求





限定要求(Restriction Requirement)

 限定要求とは、一つの出願中に2以上の独立した(independent)区別可能な(distinct)発明が含まれている場合に、審査官が出願人に対して発明を選択してクレームを限定するよう要求することをいいます(37 CFR 1.142(a))。審査官は、クレームをグループ分けして、何れかのグループを選択するよう要求します。この限定要求は、通常は実体的拒絶通知の前(サーチ前)に行われます(37 CFR 1.142(a))。

 「独立した区別可能な」の語句は冗長のようにも思われますが、独立していなくても区別可能な発明であれば限定が妥当であるとの立場を特許商標庁はとっています(MPEP §802.01)。ここで、「独立」とは、各々何らの関係も開示されていないことを意味します(MPEP §802.01)。例えば、ある処理において一緒に使われない方法と装置がこれに該当します。また、「区別可能」とは、関係はあるが別々に製造、使用、販売でき、さらに互いに特許性(新規かつ非自明)があることを意味します(MPEP §802.01)。例えば、方法が他の装置でも実施できる場合や、装置が他の方法をも実施できる場合がこれに該当します。

 限定要求が適切であるか否かの判断基準として、(A)2以上の独立した区別可能な発明であること、かつ、(B)限定要求をしなければ審査官に深刻な負担となること、の2つの基準が存在します(MPEP §803)。審査官にとって深刻な負担であることを示すためには、(イ)特許分類が分かれている、(ロ)特許分類が一緒でも発明のための努力の方向性(inventive effort)が分かれている、または、(ハ)サーチ分野が異なる、の何れかについて説明しなければなりません(MPEP §808.02)。

 この限定要求に対して、出願人は審査対象として1つの発明を選択します(MPEP §818)。選択されなかった発明は取り下げられます(37 CFR 1.142(b))。出願人は、限定要求が不当と判断した場合でも応答の際に1つの発明を仮選択(provisional election)しなければなりません(MPEP §818.03(b))。その応答の際には、限定要求の正当性を否認するか(with traverse)、否認しないか(without traverse)を明示します。

選択要求(Election of Species Requirement)

 一つの出願に一つの属(genus/generic)クレームとそれに包含される複数の種(species)とが含まれている場合に、属クレームが許可されないときに備えて審査官が出願人に対して予め種を選択(elect)するよう要求することがあります(37 CFR 1.146)。これは選択要求と呼ばれ、広義の限定要求として位置付けられます。通常、種は各実施例に対応し、属クレームは複数の実施例により定義される発明の範囲を含みます(MPEP §806.04(e))。合理的な数以上の種を含む場合には、審査官は選択要求を行う前に合理的な数の種をクレームするよう要求することができます(同上)。

 この選択要求がされた場合には、出願人は、図面や実施例に基づいて種とクレームとの対応を明確にした上で、一つの種を選択しなければなりません(MPEP §809.02(a))。また、選択後にクレームを追加する場合には、出願人は、何れの種に属するものであるかを示さなければなりません(同上)。

限定要求の手続

 限定要求(以下、広義の限定要求として選択要求を含むものとします。)は、書面によってされる場合と電話によりされる場合があります。電話による限定要求は、弁護士または弁理士に対してされ、口頭による選択および否認するか否かの見解が要求されます(MPEP §812.01)。この口頭による選択には、通常、実働3日の猶予が与えられます。弁護士等が口頭による選択を拒否するかまたは連絡がとれない場合は、書面による限定要求がされます。

 書面による限定要求を受けた場合、従前は1ヶ月の応答期間が与えられていましたが(MPEP §810)、2013年12月18日のPLT批准に伴い2ヶ月の応答期間が与えられるようになりました(1397 Official Gazette 1549)。この応答期間は最大5ヶ月まで延長可能です(37 CFR 1.136(a)(1))。

限定要求後の手続

 選択されなかった発明はその出願の審査対象から外されます(37 CFR 1.142(b))。もし選択されなかった発明についても権利化を希望する場合には、分割出願(divisional application)をすることにより審査対象とすることができます。この場合、限定要求に従ってされた分割出願に対して、親出願は拒絶の根拠として引用されません(35 U.S.C. 121)。例えば、分割出願と親出願との間では、二重特許(double patenting)の適用はありません(MPEP §804.01)。

 なお、選択されなかった発明を補正により復活させることはできません(37 CFR 1.145, MPEP §821.03)。これは、RCEをした場合も同様です(MPEP §818.02(a))。

限定要求に対する再考

 限定要求に不服のある出願人は、その応答として限定要求の正当性を否認した場合(37 CFR 1.143)、それでも限定要求が撤回されなかったときには、請願により再考を求めることができます(37 CFR 1.144, MPEP §818.03©, §1002.02(c))。もっとも、限定要求を否認することは審査官の心証を害するのみならず、独立した区別可能な発明でないことの自白にもつながりますので、注意が必要です。

 また、PCT出願を経由した国内出願には、米国の限定要求よりも緩やかなPCT上の発明の単一性(unity of invention)の基準が適用されることになっていますが(MPEP §1893.03(d))、審査官によっては米国の基準で限定要求をしてくることもしばしばあります。そのような場合には否認することも一考に値しますが、実務上はその後の審査官の対応を考慮して限定要求に従うことが多いようです。

取下げクレームの再結合(rejoinder)

 限定要求に従って取り下げられたクレームについては、出願が特許可能状態になった際、特許可能クレームに対して一定の関係を有する場合には再結合される可能性があります(MPEP §821.04)。例えば、以下のような関係が想定されます。
・プロダクトクレームと、その全ての限定事項を含むプロセスクレーム(MPEP §806.05(f))
・サブコンビネーションクレームと、複数のコンビネーションクレーム(MPEP §809)
・属クレームと種クレーム(MPEP §821.04(a))

 このように発明同士を結合する働きを有するクレームは、一般に結合クレーム(Linking Claims)と呼ばれます(MPEP §809.03)。