優先権(right of priority)とは、パリ条約により認められている権利であり、他国でされた先の出願(第1国出願)をした後に優先権を伴って後の出願(第2国出願)をした場合に、第2国出願に対して第1国出願時に出願したのと同様の取扱いを認める権利です。この優先権が成立するためには、(a)第1国出願が正規なものであること、(b)第1国出願が最初の出願であること、©第1国出願と第2国出願の内容に同一性があること、(d)優先期間(12ヶ月)内に第2国出願を行うこと、(e)第2国出願において優先権主張を行うこと、という条件を満たしている必要があります(Paris Conv. Art. 4)。
米国はパリ条約の同盟国ですので、他の同盟国(例えば、日本)でされた先の出願から12ヶ月以内に優先権主張を伴って米国に特許出願することができます(35 U.S.C. 119(a))。
米国において優先権による利益を受けるためには、先の出願の出願番号、出願国および出願日を特定した優先権主張(claim for priority)が必要です(35 U.S.C. 119(b)(1))。この優先権主張は、出願データシートにおいて意思表示されなければなりません(37 CFR 1.55(d)(1))。
また、先の出願の内容を証明するための優先権証明書(出願書類の謄本 : Certified Copy of the Foreign Application)(35 U.S.C. 119(b)(3))は、日本出願を基礎とする場合には提出する必要はありません(37 CFR 1.55(h))。また、優先権証明書の英語訳についても、要求されない限り提出する必要はありません(37 CFR 1.55(g)(3))。
米国において優先権による利益を受けるためには、他国でされた先の出願から12ヶ月以内に米国で出願しなければなりません(Paris Conv. Art. 4 C(1), 35 U.S.C. 119(a))。また、優先権主張の意思表示は、米国出願日から4ヶ月または最初の出願日から16ヶ月のいずれか遅いときまでにされる必要があります(35 U.S.C. 119(b)(1), 37 CFR 1.55(d)(1))。
ただし、特許法条約(PLT)批准に伴う2013年規則改正により、優先期間を途過した場合であっても、2ヶ月以内に出願されていれば優先権を回復することが可能となりました(37 CFR 1.55(c))。この場合、遅延が意図しない(unintentional)ものであることを述べた陳述書、および、料金の支払いが必要です(37 CFR 1.78(b))。
米国において優先権主張出願を行った場合、他国でされた先の出願内容との同一性の判断が重要な問題となります(MPEP §201.15)。出願内容の同一性が認められるためには、先の出願が米国出願におけるクレームを十分サポートしている必要があります。その判断基準として、先の出願は、米国出願におけるクレームを十分サポートするよう、米国における記載要件(35 U.S.C. 112, 1st)を具備していることが要求されます(MPEP §2263.03)。米国における記載要件は一般に日本の場合よりも厳格ですので、日本出願に基づいて米国で優先権主張出願を行う予定がある場合には初めから米国の記載要件を意識して明細書を作成すべきです。
適法に優先権主張がなされることにより、先の出願に含まれる発明について先の出願時に出願したのと同様の取扱いが認められます。すなわち、先の出願と米国出願との間に先行技術が存在したとしても、その先行技術によって不利な取扱いはされません(Paris Conv. Art. 4 B)。
2011年改正法が適用される前の出願については、審査官は優先権の存在を考慮することなく米国出願日に基づいて拒絶を通知します(MPEP §706.02(b), 2136.05)。その際、例えば、「発明前」の他人の行為(公知、公用、刊行物記載)を根拠とする旧102条(a)拒絶を受けた場合、自身の先の出願が他人の行為よりも早くされたものであれば、優先権主張を行うことにより「発明前」ではないことを立証できますので、その拒絶を回避することができます。旧102条(e)拒絶についても同様です。
2011年改正法が適用された後の出願については、審査官は優先権主張の基礎となる外国出願の出願日を基準として拒絶を通知します(MPEP §706.02 VI, 2152.01)。従って、基礎となる外国出願に適切にサポートされている事項については、米国出願日ではなく、それより以前の外国出願の出願日を基準として引用例がサーチされます。